長年一緒にいる夫婦なら誰しも、一度や二度の危機に見舞われたことがあるのではないだろうか。どんなに相思相愛で結ばれても、仕事の忙しさや日常のルーティーンのなかでいつの間にか相手への情熱や思いやりが失われてしまうことがある。『間奏曲はパリで』は、そんな熟年夫婦の姿をあたたかい眼差しで描き出し、本国フランスで大きな話題を呼んだ。またフランス映画祭2014で上映された際には、チケットが即完売するほどの人気ぶりに。そんなファンの声に応えて、満を持して公開される運びとなった。
バターやチーズの名産地としても知られるフランスの北東部、ノルマンディ地方が舞台。畜産業を営むグザヴィエとブリジットは、子供も巣立ち、いまは倦怠期を迎えている。そんなとき、パリから来た姪の友人のハンサムな青年と知り合い、久々に女心をくすぐられるブリジット。パリとアヴァンチュールという抗し難い誘惑に駆られた彼女は、ついに大胆な計画を企てる。
しっとりとした大人の色香とともに、ときめきを胸に秘めたエイジレスなヒロインを魅力的に演じるのは、フランス映画界を代表する大女優のひとり、イザベル•ユペール。ミヒャエル•ハネケ、マルコ•ベロッキオ、クロード•シャブロル、マイケル•チミノら、ヨーロッパからハリウッドまで幅広く活躍し、ホン•サンスなどアジア映画の才能とも積極的にコラボレートしている。『ピアニスト』(2001)と『ヴィオレット•ノジエール』(1978/日本未公開)で二度カンヌ国際映画祭最優秀女優賞を受賞。本作では、夫を愛しつつも非日常的なアヴァンチュールに心をときめかせる女性の可愛らしさを表現し、アラフィフ世代の圧倒的な共感を集める。さらに彼女が見せる田園ファッションも見逃せない。毛皮のロシア帽やタータンチェックのマント、粋なスカーフの合わせ方など、ファッショナブルでお手本にしたい要素が詰まっている。
ユペールの相手役を務めるのは、そのいぶし銀の味でフランス映画界に欠かせない名優、ジャン=ピエール•ダルッサン。アラン•レネ、ジャン=ピエール•ジュネ、セドリック•クラピッシュらの作品に出演。またアキ•カウリスマキの『ル•アーブルの靴みがき』(2011)で強面の下に人情味を秘めた刑事を好演し、高い評価を得た。愛する妻の浮気に傷つきながらも懐の深さを見せる度量の大きさに、観客はほろりとさせられるに違いない。
主演のふたりを取り巻く脇役陣も、多彩な実力派が揃う。ブリジットがふらりと心を傾ける浮気相手を円熟の色気たっぷりに演じるのは、『ミレニアム ドラゴン•タトゥーの女』(2009)で知られるスウェーデンの人気俳優ミカエル•ニクヴィスト。ブリジットを惑わすハンサムな青年には、フランスで人気上昇中のピオ•マルマイ。ブリジットの姪役には、フランソワ•オゾンやパスカル•フェランの新作でヒロインを務める注目株、アナイス•ドゥムースティエが扮する。
監督はこれが長編4作目となるマルク•フィトゥシ。2作目の『コパカバーナ』(2010/日本未公開)でユペールと彼女の娘、ロリータ•シャマーの共演を実現させ、カンヌ国際映画祭批評家週間部門に出品した。自身で脚本も手掛ける実力派として注目を浴びている。
奥深い人間ドラマとともに、本作に欠かせない要素がパリの街だ。エッフェル塔やセーヌ川、モンマルトルの丘やコンコルド広場の観覧車、オルセー美術館など、ブリジットの休日を彩るパリの名所が多数登場。さらに瀟洒なレストランやファッショナブルな町並みなど、大人が楽しめるパリの魅力が存分に描き出される。
アクロバットアーティストを目指し、サーカス学校に入学した息子のパフォーマンスシーンに協力したのは、今世界で熱い注目を集めている若手振付家のヨアン・ブルジョア。2014年リヨン・ダンス・ビエンナーレで、彼の作品がリヨン・オペラ座で世界初演される栄誉を得た。
原題の“La Ritournelle”はフランス語でルーティーンの意味。日常からの冒険(間奏曲)を描くと同時に、かけがえのない絆で結びついた夫婦愛を見つめた、大人のための珠玉の恋愛ドラマである。
フランスの北東、ノルマンディ地方で畜産業を夫婦で営むグザヴィエ(ジャン=ピエール•ダルッサン)とブリジット(イザベル•ユペール)。学生時代の恋が叶って一緒になったふたりだが、いまは倦怠期にある。夢想家のブリジットにひきかえ、グザヴィエは農業一筋の実直な夫。農業展の肉牛品評会では、目立たせるために雌牛におもちゃの王冠を被せようとしたイザベルをたしなめ、険悪なムードになってしまう。家業よりもアクロバットに興味を持ち、サーカス学校に入学した息子に対しても、ふたりは対照的だ。息子の夢に共感するブリジットに対し、夫はうさんくさい職業だと認めず、確執を持つ。夫の態度とルーティーンの毎日にブリジットの不満は徐々に溜まっていくのだった。
そんなとき、姪のマリオン(アナイス•ドゥムースティエ)がパリから友人たちを伴って隣家にやってくる。友人のひとりで魅力的な25歳の青年スタン(ピオ•マルマイ)と知り合ったブリジットは、その夜のパーティに誘われ、久しぶりにドレスアップをして乗り込む。いつか耳にして気になっていたヒット曲がかかり、思わずスタンとダンスで盛り上げる。そんな彼女に、パリに来たら自分が居るブティックに遊びにおいでと彼が誘う。
スタンの一言が忘れられないブリジットは、ほのかなアヴァンチュールを期待してついにプチ•パリ旅行を実行に移す。夫には持病の湿疹を見てもらうドクターとの面会と嘘をつき、なんとか二泊の日程をとりつけ、いぶかる彼を尻目にいざ魅惑のパリへ。
到着するなり、エッフェル塔やセーヌ川のクルーズに繰り出し、観光三昧のブリジット。さっそくスタンの店も訪れ、驚く彼を尻目にディナーの約束をものにするが……。一方グザヴィエは、以前ブリジットに皮膚科を紹介した友人とのなにげない会話から、彼女の嘘を知ってしまう。傷つくグザヴィエだったが、矢も盾もたまらなくなり、ついに彼女の動向をその目で確かめることを決意する。果たして、ふたりの行く末はいかに。
2015年2月2日