Fとは昵懇(じっこん)の仲である。
互いに馬鹿と言い合える数少ない友人だ。
「例のコラムの件だけどさ、やめとくよ」とFに伝えたが驚いた様子もない。
「時間ある?」とF。
私たちは御徒町の寿司屋に入った。
Fは生ビールをぐいっと飲んだ後、木札に書かれた寿司のネタを眺めながら訊いてきた。
「断る理由は?」
「二子玉川は俺の肌に合わない。おまえ知ってるだろ、風呂無しの清水荘だぞ、特急通ったらジェンガが崩れる清水荘だぞ、つげ義春の世界だぞ、二子玉川のキラキラは書けないだろ」
「今は違うだろ。で、おまえ二子玉川歩いてみた?」
「行ってない。調べた限り二子玉川にロックはない。ノー・ロック、ノー・ライフだよ。二子玉川に行く理由が見つからない」
「ロックねえ、ギターまだやってんの?」
「あの駄菓子屋で買ったクラシックギターは未だに捨てられずだよ、弾いてないけどね。エレキはヒデに売ったよ。ギターの塗装が剥がされてた。木目になってたよ。ったく」
「改造したがりだもんな、ヒデ」
「ヒデ、丁寧にヤスリかけてたよ」
「ヒデ、ヤスリ好きだもんな」
「ヒデ、ヤスリ好きだったよな」
(次のおはなし →)
2014年6月27日
ライター。酒好き。O型。めがね。